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インタビュー
2024年2月19日

ネットに子どもの写真を公開する親の行動が我が子を危険にさらす?! 大人から子どもに伝えてほしいネットの法律問題

我が子のカワイイ写真をみんなに見てほしいし、子育てはエッセイ漫画のネタになるし、バズるのよね!よし、SNSにアップ!

待つのじゃ!子どもの権利を侵害している可能性があるゾイ!

もくじ
宮川舞さん宮川舞さんプロフィール
銀座数寄屋通り法律事務所 弁護士
東京弁護士会所属。会社間の紛争を中心に、訴訟を多く手掛ける。また、『名誉毀損の慰謝料算定』(学陽書房)の執筆陣に名を連ねるなど、名誉・信用・プライバシー・肖像・パブリシティの侵害に関わる研究や事案に造詣が深い。
弁護士による誹謗中傷対策「弁護士宮川舞公式サイト」

我が子の成長を写真や動画に残す行動は、親であればごく自然なもの。携帯電話にカメラ機能が搭載されてからは子どもの写真や動画を気軽に撮り、遠くに住む祖父母や友人などにシェアすることが手軽になりました。一方で、子どもの気持ちが置いてきぼりのまま、SNSなどで全世界に子どもの写真をシェアすることでのトラブルも急増しています。今回は、弁護士の宮川舞さんに、子どもの写真や動画にまつわる法的な知識やトラブル、保護者が子どもを守るためにできることについて伺いました。

子どもの写真にまつわる権利とは?

「子どもの写真」がもつ、様々な権利について尋ねました。

体操服で隠れる部分が露出している写真は問題

――子どもの写真(以下、動画含む)を気軽にSNSにアップする保護者は多いですが、中には「子どもの着替え中」「水着姿」など問題があるのでは?と思われる写真も見られます。法的に問題に問われる写真の線引きというのはどこにあるのでしょうか。

宮川:「プライベートゾーン(半袖半ズボンの体操服で隠れる部分)」が露出している写真は法的な問題になりやすいですね。プライベートゾーンについては、近年学校でも教育が進んでいます。

宮川さんインタビュー風景

子どもの許諾が取れれば、写真をアップしていい?①肖像権

――では、子どものプライベートゾーンが露出していない写真であれば、親は写真を公開していいものなのでしょうか。

宮川:まず、年齢に関係なく、全員に「肖像権」という、自分の顔や姿を勝手に撮影されたり、公表されたりしない権利があります。これは「勝手に自分の顔や姿を撮影することを了承しない」 ケースと、さらには「撮影は許可したとしても、ネットを含む公開は了承しない」ケースも当然あるので、肖像権の内容から考えれば「被写体に①撮影の許諾も得るべきだし、②公開の許諾も得るべき」です。

子どもの許諾が取れれば、写真をアップしていい?②未成年の判断能力

宮川:基本的に肖像権を持つ被写体の同意があればネットに公開することはOKです。ただ、これは被写体が成人の場合です。成人であれば自分の写真がネットに公開されたらどうなるかという具体的な影響まで分かった上で同意するのが通常ですから、「有効な同意」と言えるでしょう。
しかし、子どもに大人と同じような判断能力があるとは言えないですよね。もちろん未成年も0歳児から17歳11か月と幅広いのですが、子どもが低年齢化すればするほど、子どもの同意は、有効な同意とは言えない判断になると思います。

子どもから、やっぱり写真を消してと言われたら?

――では子どもから、親がネットに上げた子ども自身の写真を後から消してほしいと言われた場合、親はどうすればいいでしょうか。

宮川:まず法的な観点として、先ほどお話した子ども自身の肖像権がありますし、仮にアップ時に子どもの同意を得ていたとしても、子どもの判断能力を考えるとその同意が法的に有効かといえばかなり微妙なラインです。今まで公開していたものは削除し、今後の公開もやめるべきだと思います。
そして法的な観点以外に、子どもとの信頼関係という観点も重要です。親が子どもの気持ちに沿った積極的な対応をすることは信頼関係の維持、向上につながります。逆にそこで対応してくれなければ、親への不信感はすごく高まりますよね。

写真でなくて、子どものイラスト、育児漫画ならOK?

子どもの「写真」の問題についてみてきましたが、育児漫画など「イラスト」ならどうなるのでしょうか?

わが子の育児漫画を公開することの法的な問題点とは?

――自身の体験をもとにした多くの育児漫画がありますが、この場合は、漫画というイラストなので「肖像権」の問題にはならないのでしょうか?

宮川:この場合、「肖像権」ではないですが「プライバシー権」の問題にはなりますね。劇画や法廷画のようなリアルタッチで、誰が描かれているかはっきりわかるものならば絵でも肖像権の問題になり得ます。しかし、本人と特定されにくいデフォルメされたイラストの場合、どこの誰のことを指しているかわかるときは、プライバシー権(私生活を暴かれない)の問題になります。結局、写真であろうが、文字であろうが、私生活を勝手に晒されるのは誰だって嫌なものですから。
ご自身の体験をもとにした育児漫画の中には、お子さんが小学生になる直前に作者さんの意志で終了した例もあります。このように「子どもがある程度の年齢になったらやめる」というのは1つの選択肢だと思います。

宮川さんインタビュー風景

知らぬ間にわが子の写真や名前がネットに公開?!アップしたのは、じいじ・ばあば。ママ友?!どうすればやめてくれる?

写真トラブルでよくあるのが、「内輪で見る」目的で送った写真を勝手に他の人に公開されてしまうケースです。どう対策すればいいのでしょうか。

非公開のつもりで送った子どもの写真を、ママ友に公開されてしまったら?

――「子どもの写真をママ友に非公開のつもりで送ったら、SNSにアップされてしまった」というトラブルも聞きますね。

宮川:完全に防ぐのは難しいですが、やはり「内輪だけのものだと、この人は分かってくれるだろう」という期待は通用しない気はします。
ですので、「この前みんなで撮った写真を今から送るけど、このグループの中だけにして、SNSなどの公開はしないでほしい」と事前に言葉で伝えるのが1つの抑止力にはなるかと思います。
子どもの写真を公開されてしまったあと、事前にはっきり相手に「載せないで」と言っていたかといえば、案外できていないケースもあると思うんですね。言いづらい部分もあるのは分かるのですが。

――口うるさい人だと思われたくなくて……。

宮川:グループ内の人間関係もあるでしょうし、分かります。でも、公開された後で嫌な思いをするくらいなら、私はこういうスタンスですと事前に伝えた方が楽ですよね。それに、「嫌です」と事前に明確に伝えると、相手からすると公開するハードルが一段上がると思いますし、グループLINEなどでそのやりとりが残っていれば、他のママ友からも何か言われたりする可能性はあるわけで、「抑止力」にはなるのかなと。

非公開のつもりで送った子どもの写真を、ママ友に公開されてしまったら?

祖父母が悪気なく子どもの写真をアップしてしまったら?

宮川:なお、祖父母が子どもの写真をアップしてしまうケースもありますが、今までお話したママ友への対応は、祖父母世代だとあまり抑止力にならないような気もします。
これは個人的な考えですが、祖父母世代には「子どもへの権利侵害になる」という堅い話はあまり響かないんじゃないかと思うんです。それよりも「公開することによって、孫に危険が及ぶ可能性ある」という方が響くのかなと。実際、危険な人に性的な目で見られたりとか、写真の画像から自宅や学校を特定されたりするリスクもあるわけです。祖父母だって、お孫さんが可愛いから写真をアップしているのですから。

写真を削除してほしいのに、相手が応じてくれないときは?

――子どもの写真をネットに公開した相手が、削除に応じてくれないときはどうすればいいでしょうか?

宮川:写真の公開はSNSで行われることが多いですが、この場合、SNS運営会社に対してこちら側の権利を主張し、任意の削除を求めていくことになります。
勝手に子どもの写真をアップされた場合、まず①お子さんの肖像権、そして、もし親がその写真を撮っていたのであれば、②親自身の著作権、を主張することを検討します。
ですが、SNS運営会社が写真削除に応じてくれるかというと、なかなか厳しかったりもします。「住所を晒された」などの対応はすごく早いのですが、昨今、削除要求の件数が多いので、なかなか対応してもらえないこともありますね。

――「任意の削除」にSNS運営会社が応じてくれない場合、どうしたらいいでしょうか?

宮川:SNS運営会社を相手方として、削除の仮処分の申し立てを管轄の裁判所に申し立てることになります。
正直ここまでくると、かなりの手間と心労です。これを思えば事前に「この写真は公開しないで」と一言伝えることで抑止力があるなら、した方がいいと思いますね。

子どもが親を訴えたケースも!「子どもと写真」にまつわる事件

「子どもと写真」にまつわる様々な事件について話を伺いました。

子どもが写真を消してくれない親を訴えたケースも

宮川:2016年オーストリアで、ある女性が、自身が赤ちゃんのころのオムツ交換などの写真を削除してくれない両親を相手に訴訟を起こしました。
また、ネットの相談掲示板などを見ても、「親が自分の写真を消してくれず、困っている」という子どもの相談も見かけますね。
親のお金で生活して暮らしている子どもに「親を訴えること」ができるかと言えば、なかなかできないですよね。だからこそ親が考えてあげなくてはいけないところです。

子どもが「加害者」になるリスクも防ぎたい

宮川:また、こちらは2024年と最近ですが、武蔵野市の市立小学校で複数の高学年の男子児童が学校から配布されていたタブレット使い、女子児童の着替えを盗撮していたことがニュースになっていました。
親子でネットリテラシーを高めるということは、「お子さんが被害者にならないように守る」だけではなく、「お子さんが加害者にならないように守る」意味もあります。
あらためてですが、すべての人に「肖像権(自分の顔や姿を勝手に撮影されない、撮影したものを勝手に公表されない)」「プライバシー権(私生活上の事柄を勝手に公表されない)」という権利があります。自分以外の人の写真や情報をネットで公開するときには、相手の権利を侵害する可能性があるため、その人の同意を得るのが基本である、ということを理解することが大切ですね。『お約束メイカー』で約束しても良いかと思います。

POINTまとめ
  • 子どもの写真、イラストのSNSアップは子どもの権利を侵害している可能性がある
  • 子どもの同意は大人の同意と同じではなく「同意したから大丈夫」ではない
  • 子どもを被害者にするだけでなく、加害者にしない教育も必要

POINTを意識して約束を作ってみる

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石徹白 未亜インタビュアー/ライター
石徹白 未亜
いとしろ みあ。ライター。ネット依存だった経験を持ち、そこからどう折り合いをつけていったかを書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)として出版。ネット依存に関する講演を全国で行うほか、YouTube『節ネット、デジタルデトックスチャンネル』、Twitter(X)『デジタルデトックスbot』でデジタルデトックスの今日から始められるアイディアについても発信中。ホームページ いとしろ堂
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